「発達障害」というなんだかなあ……?(2)

障害者を取り巻くあれこれ

「できない子」だった友達との再会

この記事にある、班でした実験や、「クラスワースト3の出来ない子」の内のひとりは、四年生になると同時に転校した。
その子と中学生になってから、偶然に再会したときのこと。
そのときの思い出が、いつまでも忘れられない。

千波ちゃん(仮名)との再会

中学生同士になって再会した、千波ちゃん。
最初、誰だかわからなかったけど、向こうから親し気に話しかけてきて。

「小学生のとき同じクラスだった葛西だよ、覚えてる?」

葛西……って、千波ちゃん?
あまりに姿が変わっているので驚いた。
後ろには彼女の友達と思しき少女いる。
ふたりとも、髪を染めて、スカートを短くした制服で、ブラウスのボタンの上の方は外して、化粧もしていた。双子みたいに。

「この子ねー、あたしと小学校の友達だったのー。めっちゃ頭いいんだよー」
「はあ? お前とこんな真面目そうで地味な子が友達って、嘘つくなよー」

友達らしきその子の言葉に、なんだか腹が立った。
だって、友達だったのは事実なのだから。

「普通に友達で、同じクラスで同じ班で目の前の席にいたし、一緒に勉強したりしてましたけど? ね、千波ちゃん!」

言うと、千波ちゃんはものすごく驚いた顔でわたしを見る。
次第にやわらかい表情になり、ニコッて、すっごくかわいい笑顔をして。
じゃあね!ってその場を離れた。

わたしは、そのときにいたその店舗を見たいなと思ってそこにいつづけた。
実は、どうしてここにいるのか、わかってもいない。
ただ、目の前の商品に惹かれたから見ている。
解離して、ここに来ただろうことを、そのときは自覚もしないで、商品を眺めていた。

そのまま店内を見て回っていた。
すると、しばらくして、千波ちゃんがまたやって来た。
わたしが気づくと、またすごく驚いたような顔をした。

話ししない?
千波ちゃんに言われてお店を出た。友達は一緒にいない。

「なんか、ごめんね? もしかして待っててくれた感じ?」
「違うよ? なんで?」
「なんか、やさしいね……変わんないね。あたしはこんなに変わったのに」

意味不明だった。優しいと思われるなにかをしたつもりはなかった。

「友達は? 帰っちゃったの?」
「違うよ。いるよ、別のとこに」

それから、その子は、それまでの記憶のどの場面よりも話しをした。

「すごい変わっててびっくりしたでしょ? でも、友達だって、ハココちゃんの方から言ってくれるとか、しかも同じクラスだとか同じ班だったとか、一緒に勉強してたとか、よく覚えてるね。まさかハココちゃんが覚えててくれてるなんて思ってもみなかった」

「ハココちゃんって変な子だなーって思ってたよ。だって普通に話しかけてくるし、出来ないことも、なんで?って、やろうよって言ってくるし、ムカついたりもしたけどさ。この子マジで変だなって、頭いいくせに、あたしらに友達って、マジで言ってくるの、馬鹿なんかって思ってたよ。ごめん」

「わたしも、最近、自分って変だなーって気づいた。いろんなことがズレてるの。全然勉強してないのに、ガリ勉って言われるのも、なんか申し訳なくなってくるよ。わたしよりすっごい頑張って勉強してる子が、わたしより全然順位低くて本当に理不尽だよ」

「そういうとこだよ。ハココちゃんはホントに変だって」

「小学校の頃の同級生に会うととりあえず話しかけるの、いまのあたしを見せつけたくて。みんな、名乗って近づくと、迷惑そうな顔でなにこの女?って感じの。でも、葛西さん、それどうしたの? 変な友達がいるの? って言ってきて、マジでムカつく。あたしの友達のこと何も知らずにダメ判定すんの。しかも、その子は、あたしのことクラスが一緒ってだけで友達扱いしたことなかったくせに、急に友達ぶってきて、心配するフリってねえ? マジでムカつくんだよねー」

「でさ、あのときああだったよねーって適当なこと言うと、そうだねえ、懐かしいねえって言ってくんの。そんな思い出がないことにも気づかないくらい、あたしのこと覚えてないのに、適当に合わせて墓穴掘ってんの。ウケるでしょ?」

どこに笑えばいいのか、さっぱりわからない。
悲しいって思ったけど、笑うべきところは分からない。
困った顔をするしかなかった。

「ハココちゃんってさ、なんか変わってるなって、ずっと思ってたけど、ホントの変わってるね。いまももう、輪をかけて変わってる。あたしは名字を名乗ったのに、下の名前で呼んできた子、はじめてだよ。みんな名字すら覚えて無くて、名前なんてどこにも残ってないし、あたしのこと何にも覚えてもいないのに、久しぶりって声かけられたから知り合いなんだろうって、名乗った名字にさん付け呼びしかできないって。で、この格好に、変な友達と付き合ってるのって、心配した風の好印象をとりあえず装ってんの」

その子はひとりでしゃべってた。
横顔に頬の丸っこさに面影を見つけて、ああ本当に千波ちゃんだって思ったりする。
大人になっていくんだなあ、みんな。そんなことを考えながら、見ていたら。

「なに? 化粧、変になってる?」
「ううん。すごい綺麗だなって。大人っぽくて。わたし、オシャレとか全然だから。都会の子みたいで、カッコイイ感じ。お化粧もすごく似合ってるし。うーん、でも、アイシャドウ?は違う色の方がもっとかわいいかも。青で大人っぽくていいけど、うーん、何色が良いのかは、お化粧したことないからわかんない。ってかお化粧自体よくわかんないのに変なこと言って、ごめんね」

その子はなんか笑った。
変なこと言ったかな? 気づかなかった。
気を悪くした?

千波ちゃんは、短いスカートをはたく。
足が細い。小麦色の肌。スタイルもいい。すごく大人っぽい。
同級生なのが信じられない。

「ハココちゃんに会うこと、たぶんもうないけど、ハココちゃんはこんな風にならない方がいいよ! じゃあね! ばいばい!」

その子はまたすっごくかわいい笑顔を、ニコってしてみせてくれた。
上り電車のホームの階段に走って行く。
階段の前にはさっきの友達いる。
楽しそうに笑い合っている。
その友達がわたしのほうを見て何か言ってるから、わたしは首を傾げる。

「ハココー! ばいばいーい! 良い子は早く家に帰れー!」

大きく手を振ってくれた。わたしも大きく振り返す。
千波ちゃんと友達は体を寄せ合うようにしながら駆け足で階段を下りてホームに向かう。
仲良しだなあ。わたしは呑気にそう思った。

あんな風に笑う子だったんだ。
あんな風にしゃべる子だったんだ。
でも、わたしはその子の名字の方を忘れてて、葛西という名前に少し考えて、ああ、千波ちゃんだ!ってなっただけ。
下の名前を呼ぶのが普通だったから、そっちばかりが残ってて、そっちで呼ぶのが自然だっただけ。

なんで覚えてるのが変なんだろう?
友達と言ってくれたことがうれしいって、どうして?
友達だったのは本当なのに。
それに、あの頃より生き生きしてるのに、他の子はどうして、いまの友達が悪いみたいに言うのかな?
あんなに仲良し、あんなに笑顔。
はじめて普通に話せた気がするし、うれしかった。でも、なんだろう? なんか変だ。

でも、クラスメイトだった頃に千波ちゃんを、わたしは色の白いキレイな子だと思っていて、それがさらに顕著になった千波ちゃんに、きっと良いことがあるって思っていた。

すっごく印象に残ってる思い出。
でも、その駅ビルになぜ行ったのかを覚えていなくて、どうやって返ってきたのかも覚えていなくて。
気がついたら、その子に声をかけられている瞬間だった(解離性障害の症状で記憶に空白があるため)。

その子のことを思うとき、いまは、とても重たい気持ちになってしまう。

あの子は小学校にいい思い出がなくて、こんなにも変わった自分で現れてみせたかった。
どこかで、クラスメイトだって気づけた相手を見掛けたら、話しかけてみて、自分を覚えているかを試していた。
いまの自分をどう思うか、試していた。
どんな気持ちでそれをしていたのだろう。

それに、その駅から上り電車は、都会へと連れて行く電車なのだ。
もしかしたら、当時の女子高生や中学生がやっていた、援助交際に出かけたのかもしれない。
違うかもしれない。
カラオケに行っただけって思いたいけど、そんなのは違う。
その駅ビルの近くにだってカラオケくらいある。
まさにあの頃のギャルって感じで。
「良い子は早く家に帰れ」って、あの二人が帰る場所があるのかすら考えが及ばないで、カッコイイ、大人みたいって思った。

しばらくして、中学校で、同じ小学校出身の子に言われた。
「葛西さんって覚えてる? あの、変な子。勉強とか何にもできない子、覚えてない? 転校しちゃった子なんだけど……」
「なんかね、グレちゃったんだって。変なヤバい友達とかいたらしくて、補導されたとか、やばい噂があるの。久々に会ったって子がいるんだけどね、もうマジでヤバいって感じだったって。派手になっちゃって、髪染めたり、化粧したり」

ほんの少しの期間を、よく覚えていない葛西さんの話で楽しそうにしていた、同じ小学校出身の女の子たち。

すっごくかわいい笑顔だった、千波ちゃん。
あの笑顔の奥のものに、気づけるほどの、知識も何にもない当時の無知なわたしは、本当によくわからなかった。

他の女子は補導の事実にそれがどういうことがわかって話していたけれど、わたしは当時何にも気づかないでいた。

つまりは、やっぱり、えんこーなんだって、それにすら気づけない当時のハココのおめでたい頭がすごい悲しくなってくる。

現代であれば、きっと、何かの対応があった子たちだっただろうに。
家庭にも学校にも居場所がなくなってしまったのだろう。
確かに千波ちゃんとのことで、理不尽に泣いたことはあった。
けど、わたしは千波ちゃんをずっと友達だと思っていたし、変な子、出来ないこといっぱいの子、それは分かっていたけれど、同じクラスになった友達であることが、まず前提にあった。

笑ったらきっと可愛いだろうな。そう思って見ていた。
色白だった千波ちゃん。きれいだな。
みんなきっとそう感じていると思っていた。
なのに、元クラスメイト達は、そんなこと微塵も思っていなかったことを、はじめて知った。
わたしは、千波ちゃんが疎外感を覚えていたとか、そんなことすら気づかないでいた。

けど、たぶん、わたしは、現代であっても、問題なしとされてただろう、妙な特性だった。
そんな、わたしは、いま、あの子の笑顔が悲しいんだ。

当時の発達障害の女の子。男の子。
みんなきっと、一括りに、出来ない子、扱いにくい子、どうにも困った子、だったろうに。
でも、悪い子でもなんでもなかった。いまでも、そう思ってる。
あの理不尽に泣いたあとも、わたしは、千波ちゃんや、他のふたりと友達だあること、本気でそう思っていた。
それが少数というか、クラスでわたしだけであったかもしれないこと。
千波ちゃんたちからもそう思われていなかったかもなんて、気づきもしないおめでたい子だった。

大人になって、社会にいる、みなさん。
子供の時、クラスに、「ずば抜けて出来ない子」「なんだか変な子」がいませんでしたか?
あの子たちは、いまならもっと、適切に、対応されて、悲しい現実に晒されることもなかったかもしれない子です。
馬鹿にしてきませんでしたか?
仲間外れにしませんでしたか?

その生き難さは、なんて、なんて、悲しかったことでしょう。

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