この詩は、わたしのために声を上げてくれた友人へ捧げます。
わたしが病理化ラベリングを受けたとき、あなたは抗議してくれました。そのために、あなたは攻撃を受けました。
わたしは、あなたの勇気を忘れません。そして、あなたが受けた理不尽を、許しません。
この詩は、あなたへの感謝と、わたしたちの連帯の記録です。
一杯のスープ
とてもおいしい
とてもすてきな
一杯のスープ
誰もがそのスープを
素晴らしいと話すけれど
一人がそのスープをよく思わない
そのスープを憎たらしく思って
その人はそのスープにハエを浮かべる
このスープは最悪だ
このスープを提供した人が最悪だ
そう言い換えて自分を守る
その人にとってそのスープは悪と定義されるので
ハエの混入は正義
明らかな作為の悪でも
その人にとっては正義
そのスープの提供者がどうなろうと
そのスープを見ることが不快なので
そのスープを見ないために
最も効率的が良い方法として
スープの提供者を潰す
スープが不快であるその人にとっての正義は
目の前からそのスープを消すこと
その提供者の居場所を奪うことではなく
目的はスープを自分の視界から消すこと
冷酷なまでに合理的な個人正義
けれど そのスープはたくさんの人に好まれていて
様々な人にとってかけがえのない一杯
けれど そのスープがたくさんの人に好まれていることが
その人の不快を誘う
憎たらしいのは
そのスープが人気を博していること
感謝の対象であること
自分には提供不可能なこと
だからそのスープを見なくて済むように
自分を守るために
スープの価値は変えられないし
貶めることもできないから
スープの提供者を貶めるしかない
そしてその人は決行する
「スープにハエが浮かんでる」
「提供者にスープを提供する資格はない」
自分の皿にハエを一匹浮かべるのだ
そのハエは作為の悪
スープの価値は変わらずにある
スープの提供者に不作為はない
けれどスープの価値を認めることも
貶すこともしないままに
スープの提供者に
スープを提供する資格がないとする
その目的は
スープの提供者への憎悪ではなく
スープの質の良さへの逆恨み
スープの価値は変わらない
スープの提供者の不作為も証明されない
ただ「あのスープにはハエが浮かんでいる」
そういう噂が広まって
それでも
そのスープの価値と
そのスープの提供者の
仕事ぶりを知る人は
噂なんて気にしない
今日もスープをありがとう
そう思う、そう話す
やさしさや肯定の言葉
ポジティブなものばかりを抱えていられたら
わたしたちはいつも
攻撃と否定の言葉
ネガティブなものばかりに
気を取られてしまう
今日のスープもおいしかった
そう話す人の言葉は
やわらかく撫ぜるけど
お前のスープにハエが混入していた
そう話す人の言葉は
鋭く突き刺さる
真面目にスープを仕上げてるから
自分の仕事ぶりを疑われることが
そのスープの提供者にとって
一番くるしい
真面目にスープを仕上げてるから
その仕事ぶりが評価されて
そのスープは評判を博してる
それなのに
仕事ぶりなんて知らない
そのスープの人気が
とにかくとにかくムカつくんだ!
そうして
作為の悪として
自分の皿にハエを落とす
正義のハエを振りかざす
拗れた承認欲求で
評価を得ている人のことを
貶める
スープで勝負はしない
スープでは勝てないから
ただ提供者には資格がないとする
ハエが本当に混入していたのか
提供者の不作為なのか
証拠さえ必要ない
噂なんてそんなもの
けれどその噂で得られる効果は
提供者の心が折れて
スープの提供をやめたり
スープの質が下がったり
深刻なダメージを受けるのは
スープではなく提供者
けれどそこにあるのは
提供者への憎悪ではない
提供者にしかつくれない
あの一杯のスープへの評価
自分には得ることができない
評価と承認
自分の不快感さえなくなれば
あとのことはどうでもいい
スープにどんな価値があったのか
そのスープが失われることで
どんな不利益を誰が被ろうが
スープの提供者が路頭に迷おうが
彼は、自分の歪んだ野望とプライドを
守り切れればそれでいい
そのスープは常に無料で提供されていた
そのスープに救われた人は数知れず
それでも彼の優先すべき
自分の心理的安全は
彼にとって最大の正義だった
そのために彼は評判のスープに
正義のハエを混入させる
彼の心理的安全を脅かす
スープの価値とスープへの評判を
失墜させるために
彼は正義のハエを自分の皿に
無料のスープだからこそ
提供はすべて個人の意思
その意思を砕くことこそ
スープを視界から消すための
スープの提供をやめさせるための
唯一の手段
スープの価値も
スープをつくる困難も
スープで救われる人のことなんて
彼は気にしない
スープの提供者のことも気にしない
ただ彼は
そのスープが人気であることが
気に食わなかっただけ
あまりに脆弱な精神
あまりに未熟な自己
それらは他者への評価に
自己評価を脅かされていると感じる
無関係な他者の評価に
自分の安全を脅かされたと感じて
自分の安全を守るために
その評価対象を抹消することは
彼にとって
紛うことなき正義
その誤認を支えるのは
自己という幻想
自分という物語への誤認
わたしはそんな人たちの感情に
振り回されないための
魔法の呪文を知っている
「気の毒だ」
しかし
彼の影響力は如何ほどだろうか
それでも
わたしは今日も無料のスープを拵えて
ただ毎日提供し続けるだけのことを
どこかの誰か
このスープを必要とする人と
このスープを共有するために
拵え続けるだけ
何より
わたしがこのスープを必要としている
承認されなくとも
わたしにできること
このスープを作る
そして今日もまた誰かが
スープに感謝の言葉をくれた
このスープが必要なくなることを祈りながら
スープを拵え続けている
このスープではなく
このスープを提供するわたしが
誰かに悪く言われるけれど
このスープが本当に必要なくなるまで
このスープを拵え続ける
このスープのレシピを
教えてくれた人はいない
このスープには
レシピがない
だからこそ
このスープを求める人がいて
そして
このスープを拵えるわたしは
このスープの必要性を憂いている
このスープの存在を憂う
わかるまい
解るはずがない
判られてたまるか
悔しければ
負けないだけのスープを出してみろ
そうは言えないことを
一番分かってない
この一杯のスープが
どうしてつくられたのか
どうして求めれれるのか
正義のハエを振りかざす
その手は知らない
わたしは今日も
あなたのスープをいただく
いつもありがとう。
あなたのスープをいただくために
わざわざあなたの元を訪れる
「いつもありがとう。でも、こんなスープは早く必要なくなればいいよね」
泣きながら拵えるあなたに
泣きながらいただくわたしは
つぶやく
疲れたね。
That bowl of soup you made saved me.
When I think of how much effort you put into serving this soup,
I hesitate to tell you that it saved me.
Still, I’ll say it. Your soup saved me.
Please don’t put yourself down.
Be yourself.
Your worth is one of a kind. This soup proves it.
Thank you,
Your soup is the best today too. It keeps me alive.


